2024.09.30
報告・論文・解説
2024年7月6日に開催された石綿対策全国連絡会議第36回総会における清水謙一氏(建設アスベスト訴訟全国連絡会事務局長)の特別報告『建設アスベスト訴訟の現局面と今後の課題』が、「アスベスト対策情報No.52」(2024年9月1日)掲載されました。
○『建設アスベスト訴訟の現局面と今後の課題』(アスベスト対策情報No.52)(pdf)
≪石綿対策全国連絡会議第36回総会特別報告①≫
建設アスベスト訴訟の現局面と今後の課題
清水謙一(建設アスベスト訴訟全国連絡会事務局長)
はじめに-おさらい
建設アスベスト訴訟がそもそも何なのかということですが、建設業従事者に広がるアスベスト被害に対して、被害拡大の責任が国とアスベスト含有建材を製造・流通させたメーカーにあることの責任を問い、国のアスベスト対策の転換を図る訴訟だということです。この訴訟のやはり一番の特徴は、政策形成訴訟だと自らを規定づけてきたことです。原告だけの救済を図るものではない。同等の被害者、他にもたくさん原告になれない、ならない被害者がたくさんいるわけですから、国の政策的な転換を当初から掲げてきました。
2008年から提訴をして、全国に広がって、一応の決着がついたのが3年前、2021年5月17日の東京・神奈川・京都・大坂の各1陣訴訟の最高裁判決でした。
この判決の重要性というのは、一人親方等を含む国の責任を認めたこと、そして、建材メーカー10社の共同不法行為も認めたことです。そして、判決翌日に「国との基本合意」を結び、国が謝罪をするということを土台にして、他訴訟の統一和解基準合意、原告と同等の被害者の救済、継続協議を合意しました。一方で、最高裁判決は、屋外作業従事被害者への責任否定、違法期間(1975.10.1~2004.9.30)の短さ、解体作業従事者へのメーカー責任否定という問題も抱えていました。
その後、2021年6月9日に「建設アスベスト給付金法」が議員立法で成立し、2022年1月31日から給付金申請が開始されたことは、皆さん、ご存知のとおりです。
1. 最高裁判決(2021.5.17)後の判決動向
2021年5月17日の最高裁判決以降の裁判関係のことについてちょっと述べておきたいと思います。
まず、国との和解は続くということで、95%の原告の方が国との関係では裁判を終結しました。29頁に細かな、「対国・対企業解決状況一覧表」をつけました。一番下の欄外に「合計」がありますけれども、国との関係では1,011名の被害者原告がいて、この集約時点で-去年の10月ですけれども、958人が勝訴なり和解で解決したと、こういうふうに見ていただければと思います。パーセンテージで言えば95%になります(敗訴等23人、和解協議中・判決選択28人)。一方、メーカーの方を見ていただくと、メーカーだけを訴えた裁判も始めていますので、被害者原告の数は全国で1,274人です。そのうちえ勝訴をして確定をしたというのはわずか123人にすぎません(10%、敗訴69人、訴訟継続中1,082人)。建材メーカーとの関係では1,000人を超える原告が、いまだに闘っているということが非常に重要なところです。
この間、8事件での判決・最高裁決定がありましたが、すべての判決で被告建材メーカーの賠償を認めています(29頁の表参照、神奈川2陣は最初の最高裁決定で賠償が確定しています)。ニチアス、A&AM、ノザワはすべての判決で賠償を命じられています。原告の構成によって、MMKなり太平洋セメントなりも入っています。
そして、この間、裁判所からの和解勧試が相次いでいます。すなわち、①東京1陣訴訟差戻審結審時(2023.10.10)、②九州2陣福岡地裁(2023.10.5結審、その後年明けに裁判所から提起)、③神奈川2陣差戻審結審時(2024.1.24)、④東京2陣東京高裁結審時(2024.3.1)、⑤北海道2陣札幌高裁結審時(2024.3.21)です。
これに対して、これまでに和解に応じたのは、神奈川2陣で4人の左官工原告に対してのノザワのみで、あとは和解成立せずで、③神奈川2陣に対しては2024年5月29日に差戻審東京高裁判決、②九州2陣に対しては2024年月27日に福岡地裁判決にもつれこんでいったということがあります。とくに今年の株主総会の発言の企業側の特徴は、「賠償の基準が確定していない」、「責任ある被害者には賠償に応じている」などで、自分たちの賠償の範囲を極力狭くするというのが、もう本当の狙いだということがよくわかってきました。
そういう意味ではやはり司法だけの判断ではやはりなかなか解決に至らないということは容易に想像がつくわけです。あらためて国がそのへんをどう考えるのかが重要だなというふうに思っています。
2. 建設アスベスト給付金の支給は2年半で7,000件を超える
大きな2番目に、建設アスベスト給付金制度の問題で、最新の2024年6月27日現在のデータで言いますと、申請件数で7,281件、認定相当が7,033件(中皮腫3,566件、肺がん2,656件、びまん性胸膜肥厚281件、石綿肺425件、良性石綿胸水104件)。
7,000件を超えた。ここで申請されている方はだいたい亡くなられている方が多いという特徴がありますので、いろいろな症状によって給付の金額が違っていきますけれども、平均すると一人当たりだいたい1,000万円くらいの給付金は出てるんじゃないかなと思います。そうすると7,000人だとするとですね、700億円くらいの給付金を被害者のところにいかせることができているかなということです。
認定審査会は2021年の第1回審査会で基本方針を確立確認しています。
「具体的な判断に当たっては、特に就労歴や危険の習慣等について、その人立証が容易でない場合も想定されるので、同種事例の裁判例も踏まえて、関係者の証言や申述等の内容が、当時の社会状況や被災者が置かれていた状況、収集した資料等から考えて、明らかに不合理でない場合には柔軟に事実を認定する」。
われわれとしては、こういうことでもってやってほしいわけです。しかし、この間の泉南型=工場型のところでもありますけれども、非常に国が厳しく言ってきているということです。範囲を狭めよう、狭めようということがやっぱり働いているというふうに考えております。あらためてこの原則に立ち戻らせることが大事だと思います。
3. 建材メーカーも拠出する建設アスベスト給付金法に改正する運動
大きな3番目です。昨年12月、建設アスベスト訴訟全国連絡会として給付金法の改正提案というのを行って、いまそれを国会のなかに持ち込む取り組みをしています。
給付金法附則の第2条がポイントで、こう書いてあるわけです。「国は、国以外の者による特定石綿被害建設業務労働者等に対する損害賠償その他特定石綿被害建設業務労働者等に対する補償の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所用の措置を講ずるものとする」。
これに基づいて改正せよと、こういう言い方になります。で、私たちの改正提案の一つ目のポイントは、建材メーカーからの拠出金を含めた「給付金制度」に改正せよということ。二つ目のポイントは、屋外職種、解体工を含め、違法期間外就労者も含めた被害者差別を撤廃しろということです。
この二つは最終的には政治の問題になりますから、私たちの提案はひとつのたたき台ということになろうかと思いますけれども、この改正案を広く国会のなかに持ち込む取り込みというのをいま進めているところであります。
原告数286人の東京1陣差戻審での和解案の提示は、もうちょっと遅れそうで9月頃になるんじゃないかというのがいまの見込みですが、これはでも本当に大きな、全局を動かすことのできる中身になるんではないかと思います。
あらゆることをやっていこうと思っています。建材メーカーの株主にもなりますし、背景資本にも行こうと思っています。3月に北海道の判決の後、北海道の原告団と弁護団がA&AMに行って要請行動をしたときに、神奈川の原告の方も協力して一緒に行ったわけですけれども、A&AMの警備員が「お前はアスベストがくっついてるからこの敷地のなかに入るな」と。また、何を間違えたのか、「お前ら右翼から金もらってやってるんだろう」と、この二つを言ったわけですね。もちろんA&AMの社員ではないのですけれども、抗議文出したら、A&AMの方が非常にびっくりしたらしくて、警備会社にも確認をして、そういう事実があったということを認定して、お詫び文を送るし、A&AMのホームページにもそれを掲載するというふうな事態もありました(下記参照)。
いま現在の政治との関係関わりについても、①給付金法の改正を求める国会請願署名の紹介議員(衆議院113/462(24.2%)、参議院56/248(22.6%))、②給付金法改正パンフレット届け 512人の議員事務所(衆議院431人、参議院81人)に、③与党PTの再稼働と超党派懇談会の結成をめざす、等を確認しています。
ずっと、大山場と言ってみたり、ここが胸突き八丁だと言ってみたり、最後の直線コースだとかいろいろな言い方してきましたけれど、今度こそ嘘偽りのない正念場の闘いになろうかと思います。よろしくお願いいたします。