2025.01.20
建材メーカー訴訟
2025年1月15日、最高裁第3小法廷(宇賀克也裁判長)に係属していた首都圏建設アスベスト神奈川1陣訴訟について、建材メーカー4社(エーアンドエーマテリアル、ニチアス、エム・エム・ケイ、太平洋セメント)の責任が確定しました。
神奈川1陣訴訟は、2008年6月30日の提訴から18年半が経過。
建設アスベスト被害について、国や建材メーカーの法的責任を切り拓いてきた原告・被害者です。
2021年5月17日の最高裁判決は、建材メーカーの責任を個別に審理する必要があるとして東京高裁に審理を差戻し。
差戻審の東京高裁第2民事部は2023年5月31日、4社の責任を認める判決を出しており、今回の最高裁決定は、この東京高裁判決をそのまま認めました。
建材メーカーは、改めて法的責任が認められたことを真摯に受け止め、1日も早く全面解決へ向けて動き出すべきです。
○日本経済新聞:建設石綿訴訟、4社への賠償命令確定 最高裁
○建設アスベスト神奈川1陣訴訟 訴訟終結を受けての声明(pdf)
建設アスベスト神奈川第1陣訴訟訴訟終結を受けての声明
2025年1月16日
首都圏建設アスベスト訴訟神奈川原告団
首都圏建設アスベスト訴訟神奈川弁護団
首都圏建設アスベスト訴訟統一本部
建設アスベスト訴訟全国連絡会
1(訴訟の終結)
最高裁判所第3小法廷(宇賀克也裁判長)は2025年1月15日付けで、原告らの上告受理申立を不受理とする決定、並びに、ニチアス、A&A、MMK、太平洋セメントの上告及び上告受理申立をいずれも退ける決定を行った。
最高裁判所によるこれらの決定によって、建設アスベスト神奈川第1陣訴訟(以下、「神奈川1陣訴訟」という。)の訴訟手続は完全に終結することになった。
2(神奈川1陣訴訟の経緯)
神奈川1陣訴訟は、2008年6月30日に原告43名で第1次訴訟を、2010年4月23日に原告38名で第2次訴訟を提起した。そして、2012年5月25日に横浜地方裁判所第9民事部(江口とし子裁判長)において、全国の建設アスベスト訴訟の中で初めての判決の言渡を迎えたが、国及び建材企業に対する請求を全面的に棄却するという信じ難い判決であった。
しかし、首都圏建設アスベスト訴訟統一本部の下、原告団、弁護団、支援する労働組合が一丸となり、東京高等裁判所における控訴審での巻き返しを図った。その結果、2017年10月27日には、東京高等裁判所第5民事部(永野厚郎裁判長)において、国及び建材企業4社に勝利する判決を勝ち取った。
そして、2021年5月17日には、最高裁判所第1小法廷(深山卓也裁判長)において、国及び建材企業の損害賠償責任を認める判決を勝ち取り、菅義偉首相(当時)の謝罪と、「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」の制定による国の給付金制度の創設へとつながったのである。
3(神奈川1陣訴訟の評価)
国の損害賠償責任は、労働関係法令による規制権限不行使について、国家賠償法1条1項の適用上の違法性が認められたことによるものである。その中で、労働契約を締結して労務の提供を行う労働者だけでなく、一人親方や零細事業主なども含め、国の損害賠償責任が認められたことは、労働関係法令における保護の範囲を拡張するものとして高く評価できる点であった。
また、建材企業の損害賠償責任に関し、民法719条1項後段の類推適用による共同不法行為の成立が認められたことは、多数の建材企業が長年にわたって危険な石綿含有建材を製造、販売し、多くの建設作業従事者に石綿による深刻な健康被害を発生させてきた「戦後最大の労災」である石綿による健康被害の問題の本質を捉えたものであった。以上の点を含め、国と建材企業の損害賠償責任を明確に認めさせることができた点は、神奈川1陣訴訟の最大の成果であり、大きな到達点として評価することができる。
他方で、国との関係では屋外作業従事者が、建材企業との関係では屋外作業従事者及び解体作業従事者が救済の対象から除外されてしまっている。これは、建設現場において共に働いてきた建設作業従事者について、職種や作業内容の違いにより、救済対象の線引きを図ることであり、絶対に克服しなければならない重大な課題である。
4(最後に)
神奈川1陣訴訟の提起時に掲げた、「原告らの命あるうちに解決を!」との誓いは、多くの原告との関係で果たすことができなかった。また、全ての被災者の救済という目標については、国の給付金制度の創設により大きく前進したものの、屋外作業従事者や解体作業従事者の救済、建材企業をも含めた給付金制度の拡充という問題点を残したままである。
全国の建設アスベスト訴訟では、数多くの原告がまさに命を賭けた闘いの末に、画期的な最高裁判決と国の給付金制度の創設を勝ち取ったものである。そのような原告らの命懸けの闘いに思いを馳せる時、生ある我々が闘いを途半ばで放棄することは断じてできない。
神奈川1陣訴訟の終結という一つの区切りとなるこの機会に、屋外作業従事者や解体作業従事者を含めた全面的な救済の実現と、建材企業を含めた給付金制度の拡充を実現するその日まで、我々は最後まで死力を尽くし、闘い抜くことを改めて表明するものである。
以上